白い巨塔を読みました。
これまでドラマを見た事もなかったので、初めて小説で読むことに。
この作品、母親に聞いたら、かなり昔の作品であり、これまで何度もドラマ化されていたようですね。
僕としては、唐沢寿明と江口洋介の印象がとても強いこの作品、
読んでみて、正直面白い。
僕は医療の事などほとんど無知に等しい。
だけど、シロウトが読んでも分かりやすく描写されているし、随所にストーリーを邪魔しない程度に専門知識の解説もされていて、
むしろ、全ての知識が物語全体で必要な知識であるから、それだけ頭にも入ってきやすいのです。
文庫本で買ったのだが、5冊もあるなかなかの長編。
後からあとがきを読んだ所、実は本作は3巻までで、残り2巻は続編として後から書かれたものらしいです。
しかしまったくそんな事は気付かないくらい、5巻まとめて一つの素晴らしい作品として完成されています。
ベターで恐縮だが、僕個人としては里見医師の人間性の素晴らしさに非常に心を打たれてしまった。
恐らく大半の方がそうであると思う。
だけども、この作品はそんな単純な局面だけで描かれてはいないのです。
もちろん、大学病院内の政治的な絡み、イザコザ、出世欲、妬み等、黒い部分の暴露的な要素もあったり、
教授選挙での醜い選挙運動、医療訴訟の現実なども描かれています。
しかし、もっとも大きなテーマは、
・医師の視点
・患者の視点
の2つの側面から書かれている点だろう。
その2面を表しているのが「里見医師」と「財前医師」です。
作品を読んでいる途中、事務所の仲間と話す機会があったのだが、そこで彼が言ったのが、
「普通、小説というものは、味方がいて、悪者がいる。それが明確。だけどもこの作品はそうではない。」
確かにそうだと思った。
医師ではない一般人の僕にとっては、
結果的に患者を死に至らしてしまった財前医師の医療ミスに言及し、
真実を解明し、財前医師がその責任を負う事で、亡くなった患者、またはその家族が救われる、
つまり患者の生命・意志を尊重し、第一に考えるべきなのだという里見医師の考えに賛同させられるだろう。
しかし、実際に日々医師として病と戦っている医師としては、
患者の生命が第一なのは重々承知しているが、毎日何十人という患者を診なければならなく、
一人の生命よりも大勢の生命という、簡単に答えの出せない問題に悩まされるのだろう。
特に、
「この医療訴訟で、万一患者側の勝訴になってしまうと、今後医師はミスを恐れて積極的な治療ができず、
それが医療全体の成長を妨げるのだ。医師だって人間なのだ。」
といった内容の部分は納得せざるを得ない。
ただそのままでは答えの見つからない小説になってしまうので、そこは財前教授(作中教授に昇格)の非人道的な部分を出し、
読み手の感情を里見医師側に持っていっている。
ただ、物語の最後、第二審で患者側が辛くも勝訴し、財前教授が最高裁まで争う姿勢を見せた時にガラリと局面が変わる。
財前医師が胃癌で倒れるのである。
多少、「続編」らしい無理矢理感はあるけども、
これまで選挙、裁判など、心労の続く環境にいた財前教授が、
自分の専門であり、なおかつ今まさに裁判の論点になっている胃癌で倒れるという、
なんともやるせない状況に胸にくるものがありました。
そして、最後、一番僕がこの作品でグッとくるシーンが、
財前教授が結局胃癌で死んでしまった後、彼の遺書がベッドから見つかり、
そこには、
「自分の専門とする胃癌で死ぬ事がとても情けない。
だが自分が死んだらすぐにその体を解剖に回して欲しい。
この自分の一例が、今後の医療の発展に貢献する事を心から願う。」
のような事が書いてあったのである。
うーん、深い。
結局は、財前医師も、私利私欲の為だけではなく、医療技術の発展を切に願っているのだ。
つまりそれは将来的に多くの人命を救う事になるのだ。
財前医師と里見医師。
「目の前」か「将来」か、
見ている焦点が違うだけで考えも方法も変わる。
この作品、5巻と長いけど、単なる大作じゃなくて、完璧に傑作ですね。
いやー、変にドラマで中途半端に見る前に小説読めてよかった。
しかし、つくづく、医者ってすごいなーと思う。
人智を超えてると思う。
確実に、自分にはなれないな、と思う。
だって自分、血ーあんな見たら即倒するもん。